2014/10/15

速いパッセージの練習について



 今回初めてびよらの技術的な記述を行うが、最初に断っておきたいのは、僕はびよら奏者としては決して熟練者ではないし、客観的に評価するなら「中の下」でしかないということ。大人になってから我流でびよらを練習してきたため、いわゆる教則本とは異なる弾き方をしている部分が多々ある。無論、絶対音感もなければ、超絶技巧はおろか単に速いだけのパッセージをさらうのにも四苦八苦している現状だ。

しかし、そんな僕にも取り得はある。つまり「大人になってから楽器を始めたこと」である。単なるイエスマンとして、教わったことを鵜呑みにしつつ技術習得を重ねてきたわけではない。工夫を凝らし試行錯誤を重ねつつ楽器を手に取り、自分なりのメソッドを体系立ててきた。結果的に、アマオケではそれなりの演奏を実現できるまでに至った。

 前置きが長くなったが、僕は僕と同じく「大人になってから楽器を始めた奏者」にとって、何かしらのヒントになるのならすすんで技術論を展開していこうと考えている。パガニーニは弾けないが、オケ奏者として最低限戦力になるレベル。言うなれば、そこを目指しての私的レッスンである。

 周知の通り、大多数の大人から始めた弦楽器奏者にとって、速いパッセージは例外なく苦手なものである。そして「指の回る」奏者を、短絡的に「上手な奏者」と早急に評価する傾向もある。「指が回らない」という現象は、まるで万国共通の悩みのようだ。かくいう僕もまた、その例にもれない。
それもそのはず、大人になるまで物理的に速いパッセージをさらえるようになるために必要な筋肉や神経回路を形成する機会がなかったし、そのための努力を特に必要としなくても生きてこれたのだから。さらえなくて当然である。
 
 速いパッセージがさらえるかさらえないかについて、僕は基本的には誰でもさらえるようになるものと考えている(さらえる、である。弾ける、とまでは言っていない)。もちろん速さなり音符の並びなり音域なり、すべて程度の問題ではあるが、少なくともほとんどのオケ曲の場合、合奏を前提に譜面が書かれている以上、複数の人が音を合わせられる速さに収まる譜ヅラになっているものだ。よって物理的に不可能な速さのパッセージは稀であると思う。それでは、速いパッセージをさらえるようになるための練習法について、いくつか項目を分けて列挙していこう。
 

【後ろから練習する】

 
 速いパッセージの音の流れを、8つなり4つの音符に区切って、後ろのかたまりからさらう。僕の周囲には不思議とこの方法を取り入れる人がいないのだが、なぜだろう。
 確かに普通に譜面をさらえば前から進めていくのが自然だが、速く弾けずに最初でつまづき毎回頓挫していても、まるで進歩がない。いつまでたっても後ろの部分に進めないし、最悪の場合まったく手付けずのまま練習を終えてしまうこともある。よしんば前の部分がなんとかさらえるようになっても、練習頻度と習熟度の違いからいつも決まって後ろの部分でつまづく。そうなるとモチベーションも下がってしまう。すべてを確実に進歩させながら練習していくためには、前からいい加減に通して練習するよりも、後ろから固めていく方が早く確実にさらえるようになるものだ。ぜひとも僕はこの方法を薦めたい。
 
<補足>
 
 後ろから練習するということは、毎回の練習がそのパッセージの終着点まで到達するということでもある。最後までキチンとさらい通した感覚をつかむ上でも、この方法は効果的である。そして何と言っても最大の効果は、慣れの成果から後半部になるほど演奏が安定し、途中で弾けずに立ち止まることがなくなる、ということである。
 

【リズムを変えて練習する】

 
 カイザーにしろフィッシャーにしろジットにしろ、多くの教則本にはありとあらゆるリズム変奏が例外なく掲載されているものだ。それはつまり、リズムを変えて練習することがいかに重要であるかを物語っている。
 16分音符が連なった速いパッセージについても、まずはゆっくり1音1音区切って音を確認したあと、様々なリズム変奏を組み込んで練習するとうまくいく。これは右手と左手の連動を、あらゆるパターンで確認する作業であり、つまりは両手の動きを一致させる練習に他ならない。与えられたテンポの中で正確にリズムを刻めることは、つまり速いパッセージをさらえるようになるために必須のスキルなのだ。
 僕がよくやるのは、1音を2つづつ刻む、音と音の間に休符を挟みスタッカートぽく弾いてみる、スキップのリズムでさらってみる、ボウイングを逆にしてUPを若干間延びさせるようにアクセントを打つ、などである。もちろんこの他にも可能な限りいろいろやってみることを薦めたい。まさに「急がば回れ」。効果はテキメンに出る。自分で感動することもあるほどだ。
 

【右手と左手を別々に分けて練習する】

 
 両手の連動についてはリズム変奏練習で強化すればいいのだが、左右の手それぞれを別々に練習し、動きを確認することもまた必須である。地味な練習法ではあるが、侮ってはいけない。
 特に左手については音が出ないだけに、非常に困難を極めるはずだ。右手にしても、移弦の難しいところを再確認し強化する上で、有効な方法であると言える。ただ念のためにあらかじめ指摘しておくが、この方法で両手の動きが習得できても、単純にそれを組み合わせてさらえるようになるかといえば、そうではない。両手の連動は、両手を使っての練習でしか習得できないものである。右手と左手の分離練習は、あくまでも確認作業の一環であるととらえるべきだ。
 

【メトロノームを使う】

 
 自分では等速で演奏しているつもり=絶対に同じテンポで演奏している自信があるという場合でも、メトロノームにあわせてみると、案外まばらになっているものである。
 メトロノームは感情を持たないので、こちらの事情などまったく感知せず等速かつ冷徹に時間を刻む。ことわっておくが、僕は音楽的表現を行う上でメトロノームは有害なものだと信じて疑わないのだが、速いパッセージをさらえるようになることを目的とする「訓練」においては、非常に頼りになるパートナーだと理解している。
 まずは等速で均等にさらえるようになること。速いパッセージほどメトロノームを使うべきだろう。
 
 
 以上、繰り返すが僕の個人的な私的レッスンである。この方法がすべての人の役に立つとか、悩める奏者を救う手立てになるとか、そこを意図して記したものではない。ただ、なにがしかのヒントになればとは思う。
 
 

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